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エイヴリー・シンガー (Avery Singer.1987~) | MERZ

エイヴリー・シンガー (Avery Singer.1987~)

ヴェネチアビエンナーレ2019,アルセナーレ会場

ポスト・インターネット世代を代表するペインターとして近年注目を集めるNY在住のアーティスト、エイヴリー・シンガー(Avery Singer)。
二人のアーティスト夫婦の間に生まれ、幼い頃からアーティストコミュニティーの中で育ったシンガーは2005年から2010年までニューヨークのクーパー・ユニオンでアートを学び、2008年にはフランクフルトのシュテーデルシューレにも留学している。ベルリンのボロスコレクションで彼女の作品を初めて見てから数年経つが、今や欧米のアートシーンでは飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
今回は昨年開催されたヴェネチアビエンナーレ企画展に出展した作品を中心に紹介していきたい。

ボロスコレクション
 Untitled, 2015 und Topos, 2014
Foto: Boros Collection, Berlin © NOSHE


インターネット黎明期の1990年代以降、インターネット・アートというネットを媒体とした表現が頻繁に見られようになるが、絵画においてはとりわけそのディスプレイ上、あるいはテクノロジーのデジタル的な美学にフォーカスが当てられていたように思う。
先駆的な例としては90年代、アルバート・オーレン(Albert Oehlen.1954~)の「コンピューター・ペインティング」が挙げられる。オーレンは当時、最新のテクノロジーであるコンピューターを用いて生成したイメージをシルクスクリーンでキャンバスに印刷、更にその上から手描きの要素で補完するというデジタルとアナログの視覚言語が混在した抽象絵画を実践した。
また00年代以降ではフォトショップに見られる画像編集ソフトのデジタル的ジェスチャーを絵画に援用したローラ・オーウェンス(Laura Owens.1970~)、よりラディカルな試みとして、工業用インクジェットプリントを用いてウェブ上の画像をキャンバスに印刷した作品群で知られるウェイド・ガイドン( Wade Guyton.1972~)など、テクノロジーの進化に応じて、これまで多くのアーティストが絵画の更新を試みてきた。
伝統的なメディアでありながら、最新のテクノロジー、メディアのイメージを批評的に扱い、取り入れることができるのは絵画というメディウムの大きな強みだろう。

アルバート・オーレン (Albert Oehlen.1954~)
Easter Nudes, 1996年
オーレンは1990年にコンピューターを買ってからすぐにこのコンピュータペインティングシリーズの制作に取り掛かっている。デジタルに反応した最も早い例。


1987年生まれのシンガーは先のペインターよりもさらにデジタル環境が整備された、*ポストインターネット世代のペインターといえる。(*ここではインターネットが日常的なものになった後の環境という意味)
学生時代はビデオ、パフォーマンスアート、鋳造、溶接といった彫刻を学び、絵画に本格的に取り組み始めたのは卒業後の2010年以降だというシンガー。初期のシリーズは主に白黒、グレーのみで陰影、立体感を作り出す彫刻的アプローチで描かれ、シンガーのペインティングの特徴である3DモデリングソフトSketch Upでレンダリングしたイメージを、そのままキャンバスに投影し、エアブラシとマスキングテープを用いて忠実に画面へと再現している。絵画的ジェスチャーを除去した画面はPCのディスプレイ画面さながらで、絵画の非物質化を促すアプローチはオーレン、ガイトンら先行世代の影響も指摘できるだろう。

ボロスコレクション
ボヘミアンアーティストの日常を描いた『Topos』 2014

ボロスコレクションに所蔵されている作品『Topos』は一見抽象的に見えるが、実際はテーブルを挟んで対座した人型のイメージが描かれている。CG黎明期のローポリゴンを想起させる幾何学的イメージはインターネット上の画像に加え、美術史上の視覚言語(キュビズム、未来派、構成主義)を参照して構成しているという。また、この頃の初期のペインティングでは「ステレオタイプ的なアーティスト像」という主題をもとにアート業界における日常的な(架空の)シーン(アーティストとコレクター、スタジオ訪問など)を描くなど、「アーティスト」をパロディー化するようなメタ的視点もうかがえる。いっぽうでInstagramでは、自身の作品の他、今時の若者らしいプライベートな写真も同時に並べられ、現代のペインター像はどう作られ、作るのか、という問題に自覚的に取り組んでいる様子も見れて興味深い。


昨年、ヴェネチアビエンナーレのメイン企画展で展示されていた作品はそれまでの3Dモデリングソフトを用いた幾何学的なペインティングに加えて、デジタル時代における表象の在り方を問う新たな展開を見せていた。
アルセナーレ会場に展示されたペインティング4点ではそれまで使っていたエアブラシの代わりに、コンピューター制御によるエアブラシシステムを導入している。通常、飛行機などにロゴを印刷するために使用される大型のエアブラシプリンターによって絵画はほとんど自動的に生成され、手仕事ではなし得ない、写真と絵画、CGを混交したようなリアリティーを獲得している。

Self-portrait (summer 2018), 2018
シンガー初のセルフポートレート。

美術史におけるヴィーナスや水浴といった古典的テーマを下敷きにした『Self-portrait (summer 2018)』ではシャワールームの落書きとシンガー自身、さらにその奥に見える抽象的イメージなど複数のレイヤーイメージが複雑に絡み合う。水滴で覆われたガラス上を指でなぞる様はこの絵に見られるIphoneなど、デジタルデバイス画面をスクロールする所作を思い起こさせる。
シンガーは初期から一貫して画家の身体の痕跡(彼女曰く『男性的な呪縛』)を画面から取り払うことに関心を向けていたが、この絵においては手描きのジェスチャーを取り入れたりと、アナログとデジタルの境界を揺さぶる試みも見て取れる。
ガラスのレイヤーを再現するために液体ゴムや薄く溶いた白い絵具などを使用しているそうだ。

Calder (Saturday Night), 2017

シンガーの兄弟、カルダーがマンハッタンのアパートで大麻を吸っている様子を描いた『Calder (Saturday Night)』。初期のグリザイユ調から一転、近作では色彩も豊か。これらの作品ではSketch Upよりさらに高度なモデリングソフトが使われているそう。作られた画面はゲームの一場面のようでもある。

下地を塗って研磨した木製パネルの支持体


Untitled, 2019

シンガーの最新作が並ぶアルセナーレ会場。ロンドン、ヘイワードギャラリー館長ラルフ・ルゴフがディレクターを務めるこの企画展『May You Live in Interesting Times』(数奇な時代を生きられますように)では79組のアーティストが参加し、ビエンナーレの歴史上初めて男女比が同数となったことも大きな話題を呼んだ。アルセナーレとジャルディーニ、2つの会場で同じ作家が異なる作品を見せる構成も特徴。意外とペインティングが多いなとも感じた。

女性モデル(仕事仲間のアニメーターに作ってもらった)の上にタトゥーのような落書きを入れ、エアブラシプリンターで出力、さらにその上からエアブラシで加筆しているそう。絵画言語を組み込みながら、プロセスが全く読み取れない非絵画的な表面。

“When you look at a painting, you are perceiving people’s decision-making, you are seeing process behind how things are made or thought of or realized, so the way you make a painting carries with it most of its meaning.”

“絵を見るということは、人の意思決定をみるということである。つまり、物事がどのように作られ、考えられ、実現されているのかというプロセスを見ているということであり、絵の生成方法はその意味のほとんどを担っている。”


左:Untitled(Monday), 2017
右:Untitled, 2018
ジャルディーニ会場にはグリッド、幾何学的イメージで構成された旧作が3点。両会場で計7点のペインティングを観ることができた。

Untitled(Monday), 2017
ロシア構成主義の彫刻家,ナウムガボ(Naum Gabo.1890~1977)の「構成された頭部」を思い起こさせる作品。ジェンダーすらわからない最小限の要素で構成されている。

Sensory Deprivation Tank (sad face),2018


ルートヴィッヒ美術館(ケルン) Schultze Projects #2 
Untitled,2019

現在、ドイツ、ケルンにあるルートヴィッヒ美術館でもシンガーの作品をみることができる。2017年から開始され、2年ごとにアーティストが招待されるSchultzeプロジェクト。初回はウェイド・ガイトン、第二弾としてシンガーが選出され、美術館、階段壁面に7つのパートで構成される長さ17m、高さ3.5mの大作が展示されている。(展示は2021年10月まで。)

このプロジェクトのために制作されたという大作。オールオーバーのグリッド構造の画面をよくみるとグリッドの歪みと影によって、過去作から引用したという幾何学的イメージが浮上してくる。


制作風景。エアブラシプリンターで出力している様子。「Michelangelo ArtRobo」 という日本製ものを見つけて取り寄せたそう。


ボロス・コレクション(ベルリン)過去記事
https://www.sammlung-boros.de

ルートヴィッヒ美術館 (ケルン)『Schultze Projects #2 』
期間 : 2021年10月まで
https://www.museum-ludwig.de/de/ausstellungen/schultze-projects-2.html

作品の詳細、Bioは以下のサイトがおすすめ
所属ギャラリー
Hauser & Wirth (チューリッヒ、ニューヨーク、ロンドン、他)
https://www.hauserwirth.com/artists/26658-avery-singer

Kraupa-Tuskany Zeidler (ベルリン)
https://k-t-z.com/avery-singer/

instagram
https://www.instagram.com/thoughtsondeck/

Nami
2015よりドイツ在住。現在はドイツの美大に在学中。 主に絵画のことについて。