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ゲルハルト・リヒター (Gerhard Richter.1932~)『Abstraktion』前編 | MERZ

ゲルハルト・リヒター (Gerhard Richter.1932~)『Abstraktion』前編

ベルリンの隣街、ポツダムのバルベリーニ美術館(Museum Barberini)のゲルハルト・リヒター「Abstraktion」展に行ってきた。今年で86歳となったリヒターは同時代で最も重要な画家の一人として数えられ、ドイツ現代絵画を語る上では欠かせない存在だ。

1025 Farben (357-3), 1974  キャンバスにラッカー塗料

旧東独に生まれたリヒターは共産主義体制下のドレスデン芸術大学で学んだのち壁画家として生計を立て、1961年、29歳で当時のアートシーンの新たな首都として発展していた西独のデュッセルドルフに移住する。(ちょうどこの年にベルリンの壁が建てられ、以降、西側に逃れることは困難になった。)デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学したリヒターはジグマール・ポルケ、コンラート・リューク、ブリンキー・パレルモらに出会い、互いに影響し合いながら学生生活を共に過ごすことになる。
当時の最新トレンドであったアメリカ発のポップアートの影響もあり、1962年にはマスメディアのイメージを使った最初のフォトペインティングが描かれ、以降、カラーチャート、グレイペインティング、アブストラクトペインティング、とスタイルを多面的に展開しながら絵画の可能性を探求し続けてきた。
今展では1960年代から今日までの「抽象」に焦点を当てた作品、およそ90点がシリーズごとに展示されている。

「同じ考えの画家たちと接触することは僕にとってとても重要だ。一人からは何も生まれない。対話の中でアイデアが発展することだってある。村で孤立して制作することなんて考えられない。人は環境に依存している。この意味で、他のアーティストと交流すること、特にリュークやポルケと一緒に制作することは、僕には重要なことで、必要な情報の一部だ。」1964年のメモ。

Vorhang (58-1),カーテン、1964  キャンバスに油彩
リヒターは自身で作品を作品リストに記録し、選びぬかれた作品は全て作品番号が付けられている。

Grau (334), 灰色、1972  キャンバスに油彩

1975年の回想。「最初(だいたい8年前)幾つかのキャンバスを灰色に塗りつぶしたとき、それは何を描くべきか、あるいはなにが描かれるべきなのかがわからなかったからでした。当然、そんな哀れむべき動機からは無意味な結果しか生まれないことも明白でした。でも時が経つにつれ、私は塗りつぶした灰色の表面の質の相違に気がつきました。そしてその灰色の表面は、私の破壊的な動機について一切語っていませんでした。作品が、私を教えました。それは個人的なジレンマを普遍化することによって、ジレンマを止揚していた。悲惨が、構築的な表現へと変わり、やがて相対的な完全さと美になり、つまり絵画となったのです。」

Grau (348-7) ,灰色、 1973 キャンバスに油彩

「灰色は私にとって歓迎すべき色であり、無関心、無主張、無形態に対応出来る唯一の色です」

最初の部屋に2点、並べて展示されているグレイペインティングは、一見、灰色に塗っただけの単調な画面に過ぎないが、近づいてみるとそれぞれ異なる筆触で塗られていることがわかる。
このシリーズでは描画材、灰色の階調、描き方のアプローチを画面ごとに変え、その差異のみが、それぞれの絵画的個性を特徴付け、それ以外のあらゆる解釈、連想を拒絶している。

左:Abstractes Bild (848-10), アブストラクトペインティング、1997 キャンバスに油彩
右:Abstractes Bild (848-11), アブストラクトペインティング、1997 Alucobond(パネル)に油彩

1024 Ferben (356-2), 1974 キャンバスにラッカー塗料

リヒターが画材店で目に留めた色見本帳に触発され制作したシリーズ。カラーチャートペインティングでは油絵具の他に工業用ラッカーを描画材として導入しているのが興味深い。キャンバスに油絵具で描かれたカラーチャートが絵画的な性格を保っているのに対して、ラッカーで描かれた絵画は反絵画的で、工業製品的な色合いが強い。これは当時、盛んであったポップアートやミニマルアートとも関係しているのだろう。

Vermalung (326-7), 1972 キャンバスに油彩

「私はキャンバス上に白と黒の絵具を、等間隔に何の規則性もなく垂らしました。それから白と黒を横断するように筆を動かし、キャンバスの下地が見えなくなるまで、そして全てが灰色に混ざり合うまでそれを続けたのです。」

Rot-Blau-Gelb (339-4), 赤、青、黄色 1972 キャンバスに油彩

「Vermalung (Inpainting)」は塗りたくりを意味し、そのタイトル通り、キャンバス上に筆をただ機械的に動かして塗りたくった作品。「赤、青、緑」と題された絵も、白、黒で描かれた「Vermalung」を三原色に置き換えただけで、同様の手法で描かれている。「塗りたくられた」色はキャンバス上で混ざり合い、わずかな色彩の主張を残して一つの画面へと収束していく。
一切の私的な表現(主題、モチーフ、構図)を排して描かれたこのシリーズは、没個性的という点で、前述のグレイペインティング、カラーチャートペインティングに通底している。

Ausschnitt (rot-blau)(273),細部 (赤、青)1970  キャンバスに油彩

Ausschnitt (Markart) (288) 細部(マカルト) 1971  キャンバスに油彩

Ausschnittのシリーズでは一見、抽象絵画のように見えるが実際は混ぜられた絵具の細部が写実的に描かれている。絵具の物質性を極力抑えて描くことで、対象が絵具そのものではなく、写真に映し出された絵具の像であることを強調しているよう。写真というメディウムを通して一度拡大された「絵具の像」は、フォトペインティングの手法で描かれることで絵画空間に奇妙なイリュージョンを生み出している。

長くなりそうなのでで今日はここまで。会期中に書く予定が遅くなってしまった…
後編ではコンストラクションからアブストラクトペインティング、全体の感想を書く予定。
レポート内のリヒターの発言はすべて「評伝ゲルハルト・リヒター」から引用してます。


Museum Barberini
Alter Markt / Humboldtstrasse 5–6, 14467 Potsdam 
会期終了(10月21日まで)
https://www.museum-barberini.com

Nami
2015よりドイツ在住。現在はドイツの美大に在学中。 主に絵画のことについて。