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エルムグリーン&ドラッグセット(Elmgreen & Dragset)『Short Story』|ケーニッヒギャラリー | MERZ

エルムグリーン&ドラッグセット(Elmgreen & Dragset)『Short Story』|ケーニッヒギャラリー


ベルリンを拠点に活動するアーティストデュオ、デンマーク出身のマイケル・エルムグリーン(1961~)とノルウェー出身のインガー・ドラッグセット(1969~)。1995年から活動を始め、インスタレーション、パフォーマンス、彫刻、映像など幅広いメディアを用いた作品で国際的な人気を博している。今回はベルリンはケーニッヒギャラリーで開催されたエルムグリーン&ドラッグセットの同ギャラリー初個展を紹介する。


ブルータリズム建築の教会を改装したケーニッヒギャラリーの重厚な空間で展示されているのは、ほぼ原寸大のテニスコートと3体のブロンズ彫刻から構成されたインスタレーション。照明を落とした広大な空間へ一歩入ると、スポットライトを浴びた車椅子に乗る歳老いた男性の彫刻、その先にはテニスコートを挟んで対照的な様子を見せる2人の少年が配置されている。


コートの周囲をゆっくりと歩きながら見ると、一方の少年はコートに倒れ込み、対する少年はトロフィーを持って背を向け、双方の様子からテニスの試合直後、コート上の「勝者と敗者」であることがわかる。
この試合における勝者、トロフィーを持った少年像はゲームの勝ったにもかかわらず、その表情はどこか物憂げで浮かない。もう一方の倒れ込んだ少年像と比較すると、ひと回りサイズが大きいことから、この試合は予めトロフィーを持った少年に有利なアンフェアなゲームであったことが示唆されている。
ここでは試合後のワンシーンが切り取られているが、暗く沈んだ両者の表情からは「勝者と敗者」という残酷な側面のみが強調され、スポーツに興じた様子は一切感じられない。
モダニズム絵画になぞらえたというコート上の勝敗は、アートワールド、あるいは私たちの社会における構造的な歪み(最初から不公平な条件が組み込まれているゲーム)に対する批評的な言及とも読み取れる。

“One has lost, one has won, but they both seem rather unhappy somehow. There’s a lot about winning in our society, to be the best one, but this idea of winning is maybe not always the best position to be in,”
“一人は負けて、一人は勝っているのですが、二人ともどこか不幸そうに見えます。私たちの社会では、一番になるためには勝つことが大切ですが、この勝つという考えは、必ずしもベストな立場にいるとは限らないのかもしれません”

コートに沿って一周すると、再び車椅子に乗った男性像と対面するよう導線が引かれ、改めて、この男性と2人の少年の関係について考えさせられる。少年の祖父なのか、もしくは目を閉じ、眠っているように見えることからも、ゲームの観客ではなく、夢をみているか、少年時代の記憶を回想しているのかもしれない。
だとするとこの男性は一体どちらのコートに立っていたのだろうか。勝者なのか敗者なのか、そして、このゲームが彼の人生にどう影響を及ぼしたのか。

“These moments can also be what is kind of creating your whole life… That little childhood moment in your life might be the factor that determines how your life will be later on…”

“これらの瞬間はまた、あなたの人生を創造している可能性もあります…あなたの人生でその小さな子供の頃の瞬間は、後のあなたの人生がどのようになるかを決定する要因になるかもしれません….”

エルムグリーン&ドラッグセットのインタビューと展示風景


ベルリンを拠点に活動するエルムグリーン&ドラッグセットはベルリンの公共彫刻も2点手掛けている。
どちらもベルリンの歴史にまつわる作品で、そのうちのひとつはティアガルテンにあるDenkmal für die im Nationalsozialismus verfolgten Homosexuellen (ナチズムによって迫害された同性愛者の記念碑)である。
ナチズムによって迫害された同性愛者のため、ドイツ政府の計画、実行のもと公募によって選ばれたエレムグリーン&ドラグセットが手掛けた記念碑だ。ぽっかりと開いた開口部の奥では若い男性同士、女性同士がキスする映像がループで流れる。

Denkmal für die im Nationalsozialismus verfolgten Homosexuellen 2008年
(ナチズムによって迫害された同性愛者の記念碑)


もうひとつはベルリンの現代美術館、ハンブルガーバーンホーフの敷地内に去年から常設展示されている『Statue of Liberty (自由の女神)』。ベルリンの壁崩壊から30周年という節目の年に設置されたこの作品はその外観からわかるようにベルリンの壁の一部にATMを取り付けたものである。
資本主義の西と共産主義の東という対立する二つのシステムを象徴するATMと壁。
壁崩壊後のベルリンは未成熟でありながら自由な雰囲気に満ちた都市だったが、その後の急速な変化とジェントリフィケーションの波によってその空気はますます失われつつある。ベルリンの壁は今ではフォトスポットと化し、ATMはその外からくる観光客をターゲットに増え続けている。『自由の女神』は東西分裂と、資本主義化によって失われた街の記憶の記念碑であると同時に、今なお切り売りされるベルリンと歴史への皮肉を込めた作品でもあるという。

Statue of Liberty (自由の女神) 2018年
ニューヨークのランドマーク「自由の女神」から引用している。


エルムグリーン&ドラッグセット
1995年から活動を始め、これまで数多くの国際展に出展。2009年のヴェネチアビエンナーレではデンマーク館とノルウェー館をコレクターの家に見立てた展示で特別賞を受賞。ビエンナーレ初となる国を跨いだ合同展示というのも、大きな話題を呼んだ。その他、ファッションブランドのプラダに模した店舗をテキサスの砂漠地帯に常設展示した『Prada Marfa』など。日本では横浜トリエンナーレ、タカ・イシイギャラリーなどで展示もしている。
http://elmgreen-dragset.com


エルムグリーン&ドラッグセット『Short Story』
場所:ケーニッヒギャラリー (KÖNIG GALERIE)
期間:5月12日〜8月2日まで(会期終了)
https://www.koeniggalerie.com/exhibitions/28356/short-story/

Nami
2015よりドイツ在住。現在はドイツの美大に在学中。 主に絵画のことについて。