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Travel around Art :ドイツ・ベルリンアート情報 - Part 25

『The World on Paper』ドイツ銀行コレクション


PalaisPopulaireで開催されている『The Word on Paper』展がとても良かった。
ドイツ銀行と言えばこれまで独自のギャラリースペースであるDeutche Bank Kunsthalle で定期的に企画展を開催してきたが、今展からPalaisPopulaireに場所を新たに移し再スタートを切ったようだ。Deutche Bank Kunsthalleが一つの大きなフロアしかなかったのに対して、ここは3つの展示室で構成され、天井高こそないものの、展示スペースは前会場より広くなっている。
新たなスペースでこけら落としとなるのが34か国、133名のアーティストによる紙媒体の作品に焦点を当てた展示だ。3層のセクションに分かれた展示室はそれぞれ異なるテーマが設けられ、最初のセクション『Abstraction, Order, Emotion (抽象、規律、感情)』では戦後から現在までの、主に抽象的な視覚イメージを用いたアーティストの作品が展示されている。

まず展示室に入ると最初に目に飛び込んでくるのがベルリンを代表する女性アーティスト、カタリーナ・グロッセ(Katharina Grosse,1961~)のこの大きな作品。

Katharina Grosse  
無題 1995    紙に油彩
9枚の異なる色が塗られた紙で構成されている。


工業用スプレーを使って景色を変容させるような、スケールの大きなインスタレーションや絵画を制作する彼女らしいアプローチで、シンプルながら強烈な色彩を放っている。
続けてゲルハルト・リヒター(1932~)、ジグマール・ポルケ(1941~2010)、イザ・ゲンツケン(1948~)というドイツ人アーティストのラインアップ。いずれも小品だが、美術館ではあまり目にすることができない貴重なドローイング作品。
その他、ジョアン・ミッチェル、エヴァ・ヘッセ、ブリジット・ライリー等、抽象表現主義、ミニマル、ポストミニマルから現在活躍中のアーティストまで、非常に広範囲かつ豪華で見ごたえがある。


ゲルハルト・リヒター

ジグマー・ポルケ

ダニエル・リヒター  (Daniel Richter,1962~)

ルドルフ・スティンゲル (Rudolf Stingel,1956~)
無題、ボード紙にエナメル塗料、油彩


階を下りて続く『Body, identity, History (身体、アイデンティティー、歴史)』、<Body>では身体自体を対象として描くイケムラレイコ、ゲオルグ・バゼリッツ。描く行為の身体性について言及しているようなジョン・ケージ。パフォーマンスへ展開していくまでの過程、アイデアを描いたレベッカ・ホルン等のドローイングが並ぶ。

イケムラレイコ (1951~)
Liegend,1997 紙に水彩、鉛筆

ジョン・ケージ (John Cage,1912~1992)

レベッカ・ホルン(Rebecca Horn ,1944~)

その他、集団の歴史を詩情豊かな作品へと昇華させるウィリアム・ケントリッジ。社会主義リアリズムの手法を用いて歴史性を内包させた絵画を描くネオ・ラオホ等、アイデンティティーや歴史をテーマに据えた作品も見ることができる。

ネオ・ラオホ (Neo Rauch,1960~)
Echo, 1994  紙に油彩,   Lohe, 1994 紙に油彩

厚みのある手漉き紙に油彩で描いた100号くらいの大きな作品。紙のテクスチャーも面白い。

ウィリアム・ケントリッジ (William Kentridge, 1955~)
無題, 紙に木炭、カラーチョーク、コラージュ

ヨルグ・インメンドルフ (Jörg Immendorff 1951~2007)
Biennale 76, 1976  紙にガッシュ、アクリル、水彩、鉛筆


最後のセクション『Media, Megacities, Utopias(メディア、メガシティー、ユートピア)』で取り上げられているのは、都市の広告、コミックなどの大衆文化、マスメディアの視覚イメージをアートの文脈に取り入れた作品群。
ポップアートの画家として知られるジェームズ・ローゼンクイストの作品は広告写真のようなものを切り貼りして組み合わせ、彼が描く巨大絵画のための下絵として機能している。村上隆の作品も同様に絵画のための下絵だが、プリントされた紙に色設定などを数値化した数字が書き込んでいたりと、絵画性は極力排除されており、下絵と言うよりはむしろ設計図に近い。
奈良美智はドローイング自体にタブロー同様の価値を見出しているようなアプローチで、紙の作品ながら絵画的な強度をともなっている。

ジェームズ・ローゼンクイスト (James Rosenquist ,1933~2017)
Study for Swimmer in the Econo-mist, 1996/7
コラージュ:マイラーにフェルトペン、ボールペン、鉛筆、パステル

レイモンド・ペティボン (Raymond Pettibon 1957~)

 

奈良美智 (1959~)
Spiral Eyes, 2003 紙に水彩、チョーク

村上隆 (1962~)
Smooth Nightmare Drawing, 2000, カラープリントに鉛筆

ダグ・エイケン (Doug Aiken 1968~)
Ultraworld, 2005  コラージュ:印刷紙、色紙、カードボード、テープ


絵画、彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンス。思考を可視化する手段として紙というメディウムは最も身近なものであり、アーティストによってそのアプローチの仕方は千差万別。それぞれの思考過程が垣間見れるのはとても興味深い。
今展は全てドイツ銀行のコレクションによって構成されているそうだが、これだけ多彩なアーティストの作品をまとめて観れる機会は滅多にないだろう。


『The World on Paper』
2018年9月27日~2019年1月7日まで
PalaisPopulaire
Unter den Linden 5, 10117 Berlin
開館時間:10:00~19:00,
木曜日:10:00~21:00
休館日:火曜日
https://www.db-palaispopulaire.de



シャルリン・フォン・ハイル (Charline von Heyl.1960~)『Snake Eyes』

ハンブルク中央駅から10分ほど歩くと、向かい合わせに建つ二棟の大きな建物「Deichtorhallen」が見えてくる。1911年から1913年、アールヌーヴォーからモダニズムへの過渡期に建てられた歴史的な建築物は、今日では現代アートと写真に特化した展示が催されるヨーロッパ最大規模の現代アート施設である。(当時はマルクトハレ(市場)として使われていたらしい。)
そんなDeichtorhallenで開催中のCharline von Heyl展は今夏必見の展示だろう。

2005年から今日までの作品がおよそ60点を展示

Zenge, 2012年
キャンバスにアクリル、油彩

Charline von Heylは日本でこそあまり知られていないが、2014年には世界有数の美術賞でもあるヒューゴ・ボス賞にノミネートされるなど、近年、最も目覚ましい仕事をしている抽象絵画のペインターの一人である。
彼女の絵画の多くは、レイヤーごとにアプローチの仕方を変化させていたり、それぞれの層をコラージュ的に組み合わせたりと、鑑賞者がプロセスを読み取れるような構造になっている。絵具の物質性を極力抑えたようなフラットな画面も特徴的だ。また、von Heylの絵画に共通して現れるイメージ、例えばストライプであったりジグザグな線、星などの記号は、別の絵画のための一要素として新たに繰り返し、一層のレイヤー、あるいは部分的なレイヤーとして、度々使われているのも興味深い。
異なるイメージを複雑に交錯させ、さらに絵画的な操作を加えることで、新たなイメージの出現を促しているのか。展覧会全体を通して見ると、絵画間でイメージが絡み合い、関連性は一層複雑になり、視るという行為を通して、まるでパズルを解いていくような、そんな感覚にさせられる。

Howl, 2015年
キャンバスにアクリル、木炭

透明アクリルメディウムでまずベージュ色の下地を作り、その上からパターンローラーでメディウムに凹凸をつける。半乾きになったところで木炭の粉末を表面にかけて、部分的に粉末を定着させる。メディウムは透明なため、それまで見えなかったドット、ストライプ、ジグザクの形が、木炭の粉末をかけることで、突如浮かび上がる。

Lying Eyes キャンバスにアクリル、油彩 2005年
タイトルの「Lying Eyes」は1933年のアメリカ映画「Duck Soup(邦題:我輩はカモである)」でのマルクス兄弟の台詞、「Who are you going to believe,me or your Lying eyes?」から引用している。
Von Heylの作品のタイトルの多くは小説や詩など、身の回りのあらゆるところから引用され、それらは何かをほのめかしているようでいて、説明しがたい、まさに彼女の絵画が持つ不可思議さを象徴しているよう。


Hibou Habibi, 2011年
キャンバスにアクリル、木炭 


Painting , 2006年
キャンバスにアクリル、油彩

マスキングの箇所とフラットな色面のコントラストが面白い。

von Heylはハンブルク美術大学でJörg Immendorff (ヨルグ・インメンドルフ)、デュッセルドルフ芸術アカデミーでFritz Schweglerのもとで学んでいる。
ハンブルク在住時、20代前半の彼女に大きく影響を与えたのがハンブルク美術大学の仲間でもあるMartin Kippenberger(1953~1997)やAlbert Oehlen(1954~)といった存在だ。当時のハンブルク美術大学ではSigmar Polke(ジグマー・ポルケ1941~2010)が教鞭をとっており、彼らは共にポルケから大きな影響を受けている。(ウーレンに関してはポルケクラスだ。)von Heyl自身はポルケからの直接的な影響は受けていないそうだが、その系譜に連なるペインターと言ってもいいだろう。
1994年からはニューヨークを拠点にし、1997年には同じくペインターのクリストファー・ウールと結婚、現在は欧米を中心に活動している。

ハンブルク、Deichtorhallen の展示風景

Deichtorhallen と共催で行われたアメリカのHirshhorn Museumでの展示風景とインタビュー


Charline von Heyl『Snake Eyes』
Deichtorhallen 
Deichtorstraße 1, 20095 Hamburg
9月23日まで
https://www.deichtorhallen.de