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カタリーナ・グロッセ (Katharina Grosse.1961~)『Wunderbild』 | MERZ

カタリーナ・グロッセ (Katharina Grosse.1961~)『Wunderbild』

Wunderbild , 2018
National Gallery in Prague (プラハ国立美術館)


初めてカタリーナ・グロッセの作品を観たのは2015年、ヴェネチアビエンナーレの時だった。
オクウィ・エンヴェゾー がキュレーターを務めたアルセアーレ会場の『All the World’s Futures 』。

天井から吊るされた巨大な布地と大量の瓦礫。そして、その上を縦横無尽に走る色彩。
工業用スプレーガンによって噴射された絵具は個々の境界を溶解し、空間全体を鮮やかな「色」で満たしていた。2次元から3次元へと絵画の枠組みを拡張したサイトスペシフィックなインスタレーションといえばいいか。矩形の枠に留まらない表現という意味では、都市のグラフィティー、あるいは先史時代の洞窟壁画やルネサンスの天井画を彷彿とさせる。

キャンバスの枠を超えて壁、家具やオブジェクト、建築、風景に至るまで色彩で空間を変容させてしまう圧倒的なスケール感がグロッセ作品の魅力だろう。

Untitled Trumpet, 2015
ヴェネチアビエンナーレ 2015 アルセナーレ会場


カタリーナ・グロッセは1961年、アーティストのBarbara Grosseとドイツ語学者の父のもとフライブルクに生まれた。
1982年から1986年までをミュンスター芸術アカデミーで学び、その後、転学したデュッセルドルフ芸術アカデミーではGotthard Graubner (1930~2013) に師事し 、1990年にマイスターシューラーを取得している。
1990年後半から代名詞とも言えるスプレーガンを制作に導入して以降、キャンバスから空間へと対象を拡げ、それに応じて大規模なプロジェクトも手がけるようになる。
近年のプロジェクト、Rockaway! では浜辺に佇む廃屋を鮮やかな赤と白の縞模様で覆い尽くし、建築物と絵画の融合体のようなものを作り上げている。

Rockaway! 2016
ロッカウェイビーチ ニューヨーク


空間と色彩が渾然一体となった絵画。グロッセが手がけるランドアートさながらの屋外インスタレーションは絵画というにはあまりにもスケールがでかすぎるが、それは「絵画とは何か」「何が絵画になり得るのか」という問いを突き詰めた結果でもあるのだろう。
「全てのものは絵画になり得る」。自身をペインターと自負するグロッセはキャンバスから空間へと色彩を解放し、絵画、彫刻、建築の垣根を超え、あらゆる場所に色彩のイメージを出現させている。

Nontiteled, 2009
クンストパラスト美術館 (デュッセルドルフ)常設展示


“I’m interested in the space generated by the painted image and how it can appear in any kind of existing field, be it architecture or the mundane situations of everyday life. for me, painting isn’t restricted to a canvas or a wall.”

「私は描かれたイメージによって生成される空間が、建築、日常生活のありふれた場面など、あらゆるフィールドにおいてどう現われるかに興味があります。 私にとって、絵画とはキャンバスや壁に限定されません。」

 In Seven Days Time, 2011
ボン美術館 常設展示

Kunstmuseum Bonn の顔となっている屋外彫刻『 In Seven Days Time』。作品は美術館の外壁にもたれかかる様に立て掛けられ、建物の一部と化している。Kunstpalastの野外彫刻と同様、壁に依存しているという点ではこれもスケールの大きな絵画と言える。

Untitled,2003
ボン美術館コレクション


グロッセが面白いのはこのような大規模インスタレーションと並行して、キャンバス、紙を支持体とした絵もちゃんと描いているところだ。
彼女が学生時代を過ごした80年代後半から90年代初頭は表現方法の多様化とともに、数多くの女性アーティストが台頭した時代でもある。前回取り上げたピピロッティリストはビデオインスタレーションの分野を牽引し、シンディー・シャーマン、バーバラ・クルーガーらは写真編集 (シミュレーション)、ローズマリー・トロッケルは編み物を表現に取り込んだ。いずれも男性的なメディウムからは距離を置き、それまでのコンセプチュアルアートとは一線を画している。では絵画はどうだったのか。
グロッセの場合、絵画という男性主権的なメディウムに正面から取り組みながら、スプレーガンを用いることで身体性を拡張し、男性的なマッチョイズムを凌駕した表現を獲得している。その上で「線」に対して「色」という女性的で不明瞭な概念を主題にしているところも面白い。
扱っているメディウムは違えど、ピピロッティリストの色彩に対する考えと類似しているのも興味深い点だ。

Untitled,2008
アーケン近代美術館コレクション (コペンハーゲン)

スプレーを用いて描く際は床にキャンバスを寝かせ、その周囲を回りながら描いているそう。画面に直接触れることなく即興的に、踊るように描く様はジャクソン・ポロックのアクションペインティングを想起させる。

モスグリーンの色面には土が素材として使われている。


Color is very important to me because it creates an immediate resonance with you.”
”色は私にとって非常に重要です。なぜなら色は直接、共鳴を呼び起こすからです。

König Galerie (ベルリン)
カタリーナ・グロッセ展, 2017年


グロッセの絵画には特定のモチーフ、主題といったものは存在しない。抽象的な画面は形態の単純化、色面への還元といったフォーマリズム的なものではなく、色彩自体の自律性、イメージが孕むポテンシャルを最大限に発揮させることに重点が置かれている。
そういう意味では個人の感情や主観、自然への賛美を扱ったロマン主義絵画、とりわけ「崇高」の概念が彼女の絵画を言い表すのにしっくりとくる。

untitled, 2013
シュツットガルト州立美術館コレクション

ステンシルの技法を使ったエッジも特徴的。


さて、前置きが長くなってしまったが今回紹介したかったのは今年の3月に観に行ったプラハ (チェコ)、ナショナルギャラリーの『WunderBild』展についてだ。プラハ中心部から少し離れた場所に位置するナショナルギャラリー、そのメインホールを占有した巨大インスタレーションは圧巻だった。


1920年代に建てられた現存するプラハ最大の機能主義建築は当時、貿易センター(?)として使われていたそう。美術館としてはかなり質素なつくりで、少しばかり共産主義的な趣きも感じさせる。

メインホールに入るとすぐに、この空間のために手がけたというサイトスペシフィック・インスタレーション『Wunderbild』が眼前に現れた。
巨大な布地が互いに向かい合うように天井から吊るされ、スプレーガンによる色彩のストロークが重なり合い、サイケデリックな輝きを放つ。
目の前に立つと視界全てが色彩で覆い尽くされるよう。
絵を見るというよりはその空間の中に入り込むと言った方が正しいかもしれない。


天井から床の上まで伸びる布地は複数枚で構成され、メインホールの空間と一体化している。自身の身体を動かすことでしか体感できない経験としての絵画。ギャラリー内を行き来することで、画面はその都度新たな表情を見せる。

まるで巨人が描いたかのようなスケールは圧倒的。
ちなみに2017年に日本でも展示されたミュシャの「スラブ叙事詩」が展示されていたのもこの空間。
2016年に一度スラブ叙事詩を観に来たので美術館には今回が2度目。


美術館のカフェと屋外に設置されたインスタレーションでは、スプレーガンで彩色された木の幹、床が、隔たれた内と外を繋ぎ合わせるようにカフェから屋外へと拡がっていた。グロッセが頻繁に用いる木、土、岩といった自然素材は都市と自然、人工物と自然物の対比を示唆しているのかもしれない。

木に触ったり乗ったりもできる。


“Color is the most magical surface changer. It doesn’t have the obligation to be a certain space. Color can appear anywhere.”
「色」はサーフェイスを変化させるのに最も魅惑的なツールです。色はある特定の空間に縛られることなく、どこにでも現れうるのです。”(意訳)


00年代以降のドイツ、ベルリンを代表するアーティストとして国際的に活躍するカタリーナ・グロッセ。
ドイツでは2000年から2010年までヴァイセンゼー芸術大学 (ベルリン)、去年まではデュッセルドルフ芸術アカデミーで教授も務めていた。日本での知名度はまだまだ低いがドイツの美大生、特に絵画専攻の学生で知らない人はいないぐらいだろう。今年は上海で大規模な展示もあったが、日本での展示は2011年、東京都現代美術館での『ゼロ年代のベルリン』展が最後だと思う。

11月1日からMKM Museum Küppersmühle für Moderne Kunst でアカデミー時代に師事したGotthard Graubner との展示『KATHARINA GROSSE X GOTTHARD GRAUBNER』もあるそうなので興味のある方は是非。


カタリーナ・グロッセ 『Wunderbild』
場所 : National Gallery in Prague (プラハ国立美術館)
期間 : 2018年2月16日〜2019年3月31日まで(会期終了)
https://www.ngprague.cz/en/exposition-detail/katharina-grosse-wunderbild

展覧会予定
『KATHARINA GROSSE X GOTTHARD GRAUBNER
期間 : 2019年11月1日〜2020年1月26日まで
場所 : MKM Museum Küppersmühle für Moderne Kunst,(Duisburg)
http://www.stiftungkunst.de/kultur/projekt/katharina-grosse-x-gotthard-graubner/

Nami
2015よりドイツ在住。現在はドイツの美大に在学中。 主に絵画のことについて。