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ピピロッティ・リスト (Pipilotti Rist.1962~)『Åbn min lysning (Open My Glade)』 | MERZ

ピピロッティ・リスト (Pipilotti Rist.1962~)『Åbn min lysning (Open My Glade)』


前回のセシリー・ブラウン展に引き続き、今回はルイジアナ近代美術館で開催中のピピロッティ・リスト展について紹介していきたい。
1962年、スイスのグラブスで生まれた本名エリザベス・シャーロット・リスト。アーティスト名の「ピピロッティ」は子どもの頃のあだ名で「長靴下のピッピ」に由来しているそう。
1982年から1986年までオーストリアのウィーン応用芸術大学でイラストレーションと写真を専攻し、その後はバーゼルの専門学校でビデオ、視聴覚コミュニケーションを学んでいる。1980年中頃からビデオインスタレーションを手がけ始め、その分野の代表的なアーティストとして現在では国際的に高い評価を得ている。

気さくで茶目っ気たっぷりなピピロッティ・リスト。初期のビデオ作品から近年のビデオインスタレーションまで、アーティストとしての歩みを俯瞰的に観れる展示となっている。


1960年代始めにナム・ジュン・パイクによってビデオアートが創始されて以降、ビデオ・アートのジャンルはテクノロジーの進化に伴い急速に発展してきた。60年代、70年代ではパイク、ビル・ビィオラといった先駆者が牽引し、90年代後半になると、ダグラス・ゴードンをはじめとした新世代のアーティストが表現手段として盛んに映像を用いるようになる。
ピピロッティ・リストはその新世代のビデオ・インスタレーションを代表するアーティストと言ってもいいだろう。1997年のベネチアビエンナーレではスクリーンを多面的に配置した「Ever is Over All」を発表し、没入型映像インスタレーションの先鞭をつけた。

Ever is Over All, 1997
1997年のベネチアビエンナーレにて若手作家賞を受賞
(この動画では一面のみだが実際の作品は折り曲げたような2面のスクリーンからなる。)

ドレスを着た女性が花のつぼみに模した棒で微笑みながら車の窓ガラスを割っていくセンセーショナルな映像作品。通りすがりの警官がそれを咎めることなく微笑みながら挨拶を交わすところには思わず笑ってしまう。実験的なスローモーション映像と音楽を組み合わせた初期の代表作だ。

Open my Glade (Flatten), 2000

初期の作品ではリスト作品に共通する「解放された女性」というテーマが色濃く反映されている。
男性社会における固定化された「女性らしさ」のイメージを解体するかのように、リストの映像ではしばしば、何からも抑圧されない開放的な女性が登場する。

Blutclip, 1993

Blutclipという作品では宝石を体全体に散りばめ、血を流す生理中のリスト自身がクローズアップで舐めるように映し出される。BGMで流れるポップミュージックが映像の不可思議さを強調し、全体としてミュージックビデオのように見えるのも、リスト自身が若い頃にミュージシャンとしてバンド活動をしていたことと無関係ではない。テレビ番組のようなポップカルチャー的要素を巧みに取り入れた表現は他の作品でも随所に見受けられる。

4th Floor to Mildness, 2016

音楽はオーストリア出身のミュージシャン、Soap&Skinが手がけている

このような従来の女性性を再考する試みはフェミニズムアートの文脈においても高い評価を受けているが、ピピロッティ・リストの特筆すべき点はやはり映像というメディウムに対する自己言及的なアプローチ、つまりは展示スタイルの自由さではないかと思う。

4th Floor to Mildnessという映像作品において鑑賞者は天井に投影された映像を見るため、設置されたベットの上で寝ながら見ることを強いられる。
シェイプトキャンバスのように形を変えた二つのスクリーンは、人の眼を表しているのだろうか。
だとするとこれは瞼の裏に投影された夢のようでもある。
水中をゆらゆらとさまようような映像はリスト特有の豊かな色彩と相まって夢想的ながら映像表現固有のリアリティーも感じられる。

Pixel Forest ,2016

Pixel Forest では1000以上のLDEライトによって展示空間が文字通り「画素の森」と化し、鑑賞者は3次元的な映像イメージの森へと足を踏み入れることとなる。顕微鏡で拡大したかのようなピクセル(LDEライト)は映像における細胞のようでもあり、鑑賞者は像の結ぶことのできないイメージの内部世界を疑似体験できる。

通常の平面スクリーンではなく、3次元のオブジェクトに映像を投影したインスタレーション。


ソファー、ベッド、棚、テーブルなどの家具が所狭しと並ぶ、まるでリビングルームのような展示室。
色鮮やかな映像が薄暗い空間に設置されたありきたりな家具を彩り、オブジェと空間の境界を溶解していく。
美術館では通常、作品に触れることはできないが、ここでは鑑賞者もインスタレーションの一要素としてベットに寝れたりソファーや椅子に腰掛けて作品を体感することができる。

“video is like painting on glass that moves.”


ピピロッティ・リストの作品はいくつもの要素が複雑に絡み合って構成されているが、その根底には社会的慣習やタブーへの挑戦、枠組みの拡張といったより大きなテーマが支柱となっているように思う。
豊かな色彩とMTV的な音楽を融合させた映像世界は子どもから大人まで感覚的に楽しめるのもリスト作品の魅力だろう。


ピピロッティ・リスト展『Åbn min lysning (Open My Glade)』
ルイジアナ近代美術館(コペンハーゲン)
期間:2019年3月9日〜9月22日まで

https://www.louisiana.dk/en/exhibition/pipilotti-rist

Nami
2015よりドイツ在住。現在はドイツの美大に在学中。 主に絵画のことについて。