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木下 遼 ( Ryo Kinoshita.1985~ )『We put away former ourselves』 | MERZ

木下 遼 ( Ryo Kinoshita.1985~ )『We put away former ourselves』

We put away former ourselves, 2019

デュッセルドルフ芸術アカデミー、トマ・アブツクラスを卒業した日本人アーティスト、木下 遼さんの個展を見るためこの夏、アムステルダムのGalerie Fons Weltersへと足を運んだ。
以前、デュッセルドルフ芸術アカデミー卒業生展示『Planet58』(過去記事)でも木下さん (以下敬称略)の作品は少し紹介したが、この展示ではその時とはまた違った印象を受けたので、今回はそのあたりも含めてもう少し掘り下げて書いていこうと思う。

各レイヤー(糸状の線、デフォルメされた人型のイメージ、チューブからそのまま出たかのような物質的な絵具)がタペストリーのように編み重なった『We put away former ourselves』


油絵具、顔料、蜜蝋、既製品、プラスチックなど多種多様なマテリアルが混在した画面。
糸のように細く絞り出した絵具 (蜜蝋?)は「描く」というよりも刺繍しているような触覚的な印象を与え、描かれたイメージとオブジェクトが複雑に絡み合うことで特異な絵画空間を構築している。
幾何学的な形態の交錯によってイリュージョンを発生させるという点では、デュッセルドルフ芸術アカデミーで師事したトマ・アブツの絵画を想起させるが、木下のペインティングにはアブツのペインティングにはない触覚性、多彩なマテリアルを駆使した遊戯性を画面から感じる。

you too, 2019

とりわけペインティングにおける触覚性は特筆すべき点だ。絵具の物質性を強調した絵画というのは、絵画史を遡っても印象派、抽象表現主義などが思い浮かぶが、木下のペインティングの場合、そうした身体的ジェスチャー、偶発的なニュアンスといったペインタリーな手つきは極力排除しているように見える。
粘性の高い糸状の絵具は織物のように工程が予め決められているかのごとく緻密にコントロールされ、さらにビーズやルアー、ゴムといったレディメイド的(既製品)な素材、質感をイメージの中に組み込むことで強烈な触覚性をみる者に喚起させる。

糸に擬態した絵具はオブジェクトとの親和性も高く、まるで絵具の糸がイメージとオブジェクトの継ぎ目を縫い合わせているかのよう。目の部分にはビーズが使われてたりも。

K21で展示を見たときは作品数が少なかったので作品を絵画という観点から捉えていたが、こうしてまとまった展示を見ると作品の彫刻的側面が見えてきて興味深い。聞くところによると愛知県立芸術大学では彫刻を専攻し、本格的に絵画を始めたのはドイツに来てからだそう。K21の展示も今まで見慣れてきたペインティングとはどこか違う、絵画的文法に依拠していないところに惹かれたのかもしれない。


faux in false , 2019
中央のフレーム内では人魚がルアーを捉えよう水面下を泳ぐ。
貼り付けられた実物のルアーはかじられた跡があったりと、描かれたイメージとオブジェクトの関係も面白い。


「イメージを描く」という画面上の操作に留まらず、キャンバス自体を一つのオブジェクトとして捉えるような試みも特徴的。faux in falseと題された作品では地塗りされていない生のジュートを用い、本来ならペインティングを支えるための支持体となる「布地」の部分にまで操作が及んでいる。

見慣れない絵肌。裏面から絵具を裏ごししているのかな。

キャンバスの四隅にはぽっかりと穴が開けられ、側面をよく見ると形に沿って横糸が引き抜かれた跡が。
ここではキャンバスに手を加えることで単なる支持体ではない、マテリアルとしての側面が強調されている。


I have never heard my voice, 2019

キャンバスの物質性についてより言及しているのが『I have never heard my voice 』という作品。
縦糸を引き抜くことでできた縞模様の地。その上を数字が描かれた円の連なり、さらには植物の有機的な線が画面全体を覆う。ここで注目すべきはイメージのほとんどが絵具(またはキャンバス)の糸で構成されている点だ。
円形のイメージはキャンバスの糸と見紛うほど細い縦糸で形作られ、植物の動線は引き抜かれた布地の隙間を縫うように表から裏、そして裏から表へと線を描くことでキャンバスの裏側を意識させる。(その点、通常とは反対のフレーム側が表になっているというのも示唆的)
出来上がった作品は「絵画」の様相を呈しているものの、そのプロセスを追うとかなり3次元的に作られていることがわかる。

縞模様の絵具が布地の隙間から表裏を行ったり来たり。
表面のテクスチャーをなぞることで、複雑に入り組んだプロセスも読み取れる。

I was caught, 2019
いくつかの作品ではプラスチック製の自作(?)フレームがマテリアルの一要素として絵画と一体化している。

布地を重ね合わせてできた段差をビーズ、絵具が隠すように覆い、さらに糸に擬態した絵具が刺繍したかのような線を刻む。みる者の知覚を撹乱させるような試みはすべてのペインティングに共通する。

木下の絵画組成の根幹とも言えるマテリアリティ、そこに対しての感度は素材の選択から組み合わせに至るまで異常なまでに高い。それに加え画面から読み取れる仕事の丁寧さと画面上での複雑なやりとりは変態的とすら思えるほど。展示されている7点のペインティング全てを異なるアプローチで構成する引き出しの多さにも驚かされる。

Testatrixes in the fog , 2019

テクスチャーの差異がスプレーによって一元化された多層的な画面。チョロチョロとした絵具の線が絵の神経のように表面を這い回る。首をつった女性のイメージはそのシーンとは裏腹にどこかポップな印象。


Galerie Fons Welters (フロントスペース)展示風景
写真の手前側がギャラリーのメインスペースになっている。
メインスペースの広い空間を使うとなるとまた全然違う展示になるんだろうなぁと思ったり。

doubles, 2019
ペインティングと呼応するような彫刻作品『doubles』。絵画における絵具の糸が立体化したみたい。

ギャラリーの入口に設置された作品。
格子状の枠に和紙を貼り付けた衝立は茶室の中へと誘うよう。

1 and 4 pairs, 2019
顔の素材に絵画との関連性を感じる。

ギャラリーの入口には立体作品も。K21の展示では部屋のような機能を果たしていた作品だが、今回はさらに粘土でできた立体物が浮遊するように貼り付く。ペインティングを一通り見て改めてこの作品を見ると、立体でありながらどこか絵画と似た雰囲気を感じたのも偶然ではない気がする。
アプローチの仕方、構造自体は実のところ大差なく、立体から絵画、絵画から立体へとフィードバックを繰り返しながらそれぞれの可能性を追求しているかもしれない。
いずれにせよ、絵画と彫刻という異なるメディウムの交錯、その呼応関係が生む複雑で多層的な空間は見ていてとても楽しい。そして何より一点一点の作品が放つ「強さ」に木下遼というアーティストの自由奔放な遊び心、好奇心を感じる。

fruits, 2014

この展示はもう終わったけど、エッセン(デュッセルドルフの近く)では12月8日までまた違う展示がやっているみたい。木下さんの作品の場合は特に写真よりも実際に見た方が断然いいと思うのでこの記事で興味を持っていただいた方には是非そちらにも足を運んでほしい。(下にリンク貼ってます。)


木下 遼  1985年生まれ,長崎
愛知県立芸術大学彫刻科では森北伸に師事し、2011年に同大学院を卒業。2012年から2018年までデュッセルドルフ芸術アカデミーでTal R,(~14), Enrico David(14,15),Tomma Abts(15~18)のもとで学び、2018年、トマ・アブツよりマイスターシューラーを取得。現在はデュッセルドルフを拠点に活動している。
過去の展覧会にデュッセルドルフ芸術アカデミー卒業展示『Planet 58』/K21美術館(デュッセルドルフ,2019)過去記事、P o E / sonneundsolche (デュッセルドルフ,2019)、Peggy/Strizzi (ケルン,2019)など


Ryo Kinoshita 『We put away former ourselves』
場所:Galerie Fons Welters(フロントスペース)/ アムステルダム
期間: 6月22日〜7月27日まで(会期終了)
https://www.fonswelters.nl/exhibitions/we_put_away_former_ourselves/about

開催中の展覧会
Ryo Kinoshita『 you no we yes 』(3点のみ)
場所: Baustelle Schaustelle /エッセン
期間:11月8日から12月8日まで
https://www.baustelle-schaustelle.de/08-11-2019-vernissage-ryo-kinoshita-you-no-we-yes/

Nami
2015よりドイツ在住。現在はドイツの美大に在学中。 主に絵画のことについて。

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